「最初から調べ直すの?」
「そう」
社内はテレビ局からの取材依頼や問い合わせなどで朝からバタバタしている。二人ともそれどころではなかったが、大貴は里香に再捜査をもちかけた。
「捕まる前に言った「離婚届にサインしてもらう予定だった」っていうのが本当ならあの2人は無実だよ」
「前島さん……」
「分かるよ、犯人が捕まったと思ったのに調べ直すなんて嫌だよね」
「ううん。私も前島さんと同じ立場だったらそうする。とことん調べよう」
「ありがとう……!じゃあ今日の夜いつもの居酒屋で集合ね」
大貴は信頼できる仲間のため、次こそ犯人を捕まえようと意気込んでいた。
最近は夜も走るのが日課になっていた。
再び捜査を一からやるうえで頭を整理させようと思ったのだ。いつもの曲で自分を鼓舞する。きっとアリバイがある人たちの中に、嘘をついている人がいるにちがいない。アリバイをもう一度あらい直す必要がありそうだ。
後ろから足音が聞こえてきた。少し道脇によけたが追い越す様子はなく、ずっと大貴の後ろをついてきている……。
まさか……
「そこまでだ!」
真後ろで刑事の声がして突然突き飛ばされた。刑事と誰かが争う音がしたが、すぐに取り押さえられた。
それは里香だった。
「田中さん……?どうして……」
「ち、ちがうのこれは……!!」
「アンタ会社の金を着服してた!それが被害者にバレて殺した」
「え?」
「だって……私は自分のために仕事をしているの…!もっとおしゃれしたいしかっこいい人と付き合いたいし、いろんなことがしたいのにお金が必要なのよ……!」
数年前から会社のお金を横領しブランドもののバッグなど豪遊に使っていたが、川上にバレてしまい、殺害したとのことだった。田中は放心状態でパトカーへ乗せられた。
「あんたこの人がブランドもの身に付けてることに違和感はなかったのか?」
蛇刑事が聞いてきた。初めて会った時よりも優しい表情をしている気がした。
「全然…?だってバッグとか普通でしたよ」
「そうじゃない。化粧だ。デパートにも出ないような高いもんを付けてる。」
「気付いたのは俺ですよ」
顔の整った刑事が大貴を立たせながら言った。
やはり警察には敵わないなと思った。
テレビのワイドショーでは田中さんのことがまたも大袈裟に話されている。正直ショックを受けていないと言えば嘘になるが、犯人が捕まって良かったという安堵の方が大きかった。
三村は今まで通り美智子夫人の隣にいてあげるらしく、これまでより力が入っている。
「ランニングは前向いて走るんだ。下じゃない」
川上の言葉が思い浮かぶ。色々あったけど、前を向いて頑張ろう。