第一発見者の事件簿2

 柔らかい朝日の差し込む公園に似つかない険しい表情の男たちを、第一発見者の前島大貴は青ざめた顔で眺めていた。
 ランニング中に死体を見つけるなんて……事実は小説よりも奇なりとはまさにこのことだ。

 聞こえてくる会話によると、男性の死亡推定時刻は昨夜9時から11時の間で、何者かに背中からナイフに刺されたことによる失血死らしい。所持品は盗まれていないので恨みを持った人間による犯行と思われるとのことだった。

 「あの、発見当時のことを詳しく聞きたいのですが」
 目の前に細身の男たちが現れた。片方は俳優のような整った顔立ちの若い男だが、隣にいるベテランらしき男は蛇のように大きく鋭い目を大貴に向けており、相手を萎縮させるのには十分だった。
 「……えっと…、ぼ、僕はただ毎朝日課のランニングをいつも通りしていただけです…」
 死体を見たせいか、刑事に睨まれているからか口が思うように回らない。
 「あの男性に見覚えはあったりしますか?」
 「いや……」
 そう言いかけて、止まった。

 どうせすぐバレる…。

 「どうしました?」
 「……知り合いです。名前は川上純一さん。僕のつとめる会社の本部長です」
 刑事たちは目を合わせ、大貴をパトカーへ誘導した。

 大貴が警察から解放されたのはその日の夕方だった。何度も殺してなどいないと言っているのに、アリバイがないからという理由で殺人犯にされかけてしまった。怒鳴られたりはしなかったが、あの蛇刑事の話し方は相手に有無を言わせない威圧感があった。当分夢に出てきそうだ。

 「大丈夫でしたか前島さん!」
 自分の席につくと早速、隣で仕事をしていた後輩、三村隼が声をかけてくれた。仕事を覚えるのは正直遅いが、大貴を慕ってくれるいい奴だ。
 「ああ……うん」
 本当はあれこれ全部いいたいけど、もう取り調べのことは思い出したくないので適当に流し、仕事を始める。

 フロアの社員たちは皆いつも通りだが、やはりどこか寂しそうだ。厳しかったが人一倍努力家で、仕事熱心な川上が亡くなったとは今にも信じがたい。
 思えばあのランニングコースも川上が教えてくれたものだった。地面が柔らかいし、自然をかんじられるから朝走るのにはとっておきだと、楽しそうに話してくれたのだ。それだけではなく、入社してすぐ、右も左も分からない自分に優しく声をかけてくれたり、残業した後ラーメンをご馳走になったりと何かと気にかけてくれた。大貴にとって憧れであり尊敬できる人物だった。

 このままでいいんだろうか。自分はたくさんお世話になっておきながら、なんの恩返しもできないままなんだろうか…。寂しさよりも悔しさが込み上げてきた。